「LIFEWORKPRODUCTS(ライフワークプロダクツ/以下、LWP)」のウェブサイトにアクセスしていただくと、トップページで皆さまをまずお迎えするのは、ある映像作品です(2023年4月時点)。ランダムで表示される全4作品(うち3作品が撮り下ろし)の映像は、映像作家である前田博雅(まえだ・ひろまさ)さんによるもの。ビルのガラスなどに反射した人々の営みがループする映像は、実像と虚像が調和する不思議な作品です。
LWPのウェブサイトのトップページには、ぜひ前田さんの作品を使いたかったと話すデザイナーの宮沢は、前田さんの作品が描き出す世界を「LWPが目指すブランドそのもの」と話し、さまざまな価値観を持った人々が行き交う街のようすに想いを重ねたのだと言います。
本インタビューでは、前編で前田さんの作品や代表作「The City Layered(ザ・シティ・レイヤード)」シリーズについてお話を聞きました。後編では、LWP用に撮り下ろしていただいた作品について、お話いただいたようすをお届けします。(後編)
(前編へ)
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前田博雅(まえだ・ひろまさ)さん
武蔵野美術大学 造形学部 映像学科 卒業。東京藝術大学 大学院 映像研究科 メディア映像専攻 修了。絵画、版画、写真、彫刻作品を販売する国内最大級の現代アートECサイト「TAGBOAT(タグボート)」の所属作家。
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宮沢哲(みやざわ・てつ)
「LIFEWORKPRODUCTS」ディレクター。国内外のインハウスデザイナーを経て、2007年にアンドデザインを設立。2011年よりNTTドコモ プロダクトデザインディレクターを兼務。
LWPウェブサイトのトップページでは、前田さんが撮影された4作品がランダムで流れる仕様になっていますが、うち3作品が撮り下ろしです。撮り下ろしていただいた作品について、いつもの制作と異なる点や苦労した点はありましたか。
映像を撮影する前段階として、ご依頼時にLWPのブランドビジョンである「さまざまな価値観を持つ人々が暮らす時代のなかで、真に共感してもらえる人に届けたい」という想いを、LWPディレクターの宮沢さんからうかがいました。「The City Layered」シリーズで焦点を当てているのは、人の流れや建築物のスペクタクル、都市のダイナミクスがメインですから、基本的にはビルなどを見下ろして撮影しています。LWP用にはアイレベル(カメラの位置)を下げて人に近づけることで、一人ひとりの様相がより詳細に見えるようにしつつ、個人が特定できないように編集する必要がありました。
また、「The City Layered」シリーズでは、人や車、地面や周りの建物といった別々のものものがガラスなどに反射して一つの平面に重なり合うように存在しますが、LWP用の撮り下ろし作品は、ガラスを挟んで向こう側に居る人とこちら側に居る人とが重なって見えます。ガラスの手前にいる人の顔が見えすぎてしまい、その対処を編集で行う必要がありました。その点で「The City Layered」シリーズとは大きく異なりましたし、制作で苦労した点でした。
ブランドのウェブサイトで、商品ではない映像作品が真っ先に流れるトップページはとても珍しいかと思います。宮沢さんにお聞きしたいのですが、なぜ前田さんに映像制作をお願いすることになったのでしょうか。
前田さんが所属するギャラリー「TAGBOAT」の展示会に、私がたまたまプライベートで足を運んだことがきっかけでした。目にした瞬間、本能に訴えかけられたような、どこか昔から求めていたような、そんな映像だったのです。その場で映像作品を3点購入して、いきなり「一緒に仕事できないですか」と前田さんに話を切り出しました。……おそらく、相当いぶかしがられたのではないかと想像します(笑)。
正直面食らったことを覚えています(笑)。作品が売れたのはその時が初めてだった上、仕事のお話までいきなりいただいたので。
前田さんの映像作品との出合いは私にとって衝撃的でした。というのも、ものが氾濫するこの世の中でさまざまな価値観を持つ人々に、私たちはデザイナーとして必要なものを提供できているのだろうか? という疑問をずっと抱いていたんです。いつか何かのかたちで人とモノの信頼回復に努めたいと考えていたものの、LWPの名前はおろか、ブランドビジョンも何を作るのかなど何もかもが決まっていなかったのですが、前田さんの作品が描きだす世界は「LWPそのもの」だと感じたんです。
そんな運命的な出合いを経て、今のウェブサイトのトップページがあるのですね。前田さんはアーティストとしてますますご活躍なさることと思いますが、これからの夢があればぜひ教えてください。
長期的には「The City Layered」シリーズを何十年も続けていくことが一つの夢です。定点観測することで得られる発見や作品的な面白さがきっとあると思います。また、短期的な目標としては、初の個展を実現したいと思っています。より多くの人に生で作品を見ていただく機会があれば嬉しいです。
前田さんの作品は気持ちいいぐらい、淡々としていて客観的。映像には人々の終わらない物語が存在し、重なっていく「時間」を感じられる独自の視点が素敵だと思います。これからのご活躍を誰よりも楽しみにしていますし、またぜひ何かの折にお力添えいただけたら嬉しいです。
TAGBOAT所属 前田博雅さん
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前田さんが所属する、アジア最大級の現代アートのオンラインギャラリーを運営するTAGBOAT(タグボート)が、3回目となるアートフェアを開催。出展作家は約90名。2000点を超える全作品はリアルとオンラインで同時販売。
tagboat Art Fair 2023
会期/2023年4月14日(金)~16日(日)
※14日(金)はプレビューにつき、一般参加不可。
会場/東京都立産業貿易センター 浜松町館 2、3F
住所/東京都港区海岸1-7-1 東京ポートシティ竹芝
時間/11:00~19:00(15日)、11:00~18:00(16日)
入場料/1500円
TEL/03-6835-2260
URL/https://www.tagboat.com/artevent/tagboatartfair2023/