【LWP003-005作り手インタビュー】前編:スーパー繊維のDyneema®

【LWP003-005作り手インタビュー】前編:スーパー繊維のDyneema®

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LWPのプロダクトに、Mac Book AirやiPad Airの細かな傷を防ぐスリーブが登場しました。紙のように薄くて超軽量――、その素材は「Dyneema®(ダイニーマ)」です。ダイニーマ®繊維は、アパレル用品やキャンプ用品だけでなく、大型船をけん引するタグロープや釣り糸、自転車レースのユニフォーム、防弾チョッキまで、あらゆるフィールドで厚い信頼を得ているとてもすごい素材なのです。

 

私たち取材班は日本でダイニーマ®の事業開発を手掛けるアビエント・ジャパンの鳥野見雅志(とりのみ・まさし)さんにお話を伺うことができました。

 

インタビューの前編ではダイニーマ®繊維の魅力について、後編ではLWP003〜005に使用している「Dyneema® Composite Fabric(通称DCF)」についてお話を聞いたようすをお届けします。(前編)

取材・文・イラスト:阿部愛美(LWP編集部)、編集:吉田恵梨子(LWP編集部)
  • 鳥野見雅志(とりのみ・まさし)さん

    アビエント・ジャパン株式会社 シニア事業開発マネージャー。世界で事業展開する日本企業の化学部門に所属し、次世代自動車用エアコンの冷媒の開発営業として、ドイツを拠点に活動。その後、当時ダイニーマ®の開発・販売を手掛けていたオランダDSM社に入社。ダイニーマ®事業部門がアメリカのAvient Corporationに移ったことで、DSM Protective Materials社はAvient Protective Materialsに社名を変更。現在はアビエント・ジャパンに所属して、日本におけるダイニーマ®の事業開発に携わっている。

まずは自己紹介をお願い致します。

鳥野見 :

私は、オランダに本社を置く特殊高分子材料メーカーAvient Protective Materials社の日本メンバーとして、日本市場における「Dyneema®(ダイニーマ)」(※)の事業開発に携わっています。

 

ダイニーマ®は、1960年代当時にオランダの国営であった化学メーカーDSM社と日本の紡績会社東洋紡社との協働によって繊維の事業化がスタートしました。そのためダイニーマ®はDSM社のブランドなのですが、日本では最近まで東洋紡社のブランドとして販売をしてきたという歴史があります。それが、東洋紡社との販売提携が切れたことで、日本でも2020年よりDSMのブランドとしてダイニーマ®の紹介を開始するようになりました。そして、DSM社が未来の食糧危機に備えるために素材部門を切り離したため、2022年9月にダイニーマ®事業は、アメリカのAvient Corporation社の事業およびブランドとなったんです。

※ダイニーマ®および中国生産Trosar®を含む。
アビエント・ジャパン株式会社の鳥野見雅志さん。

さまざまな変遷を経て、今は“アビエント社のダイニーマ®”ということなんですね。アウトドア用品店などでダイニーマ®製品のテントや小物入れなどを目にすることがあるのですが、ダイニーマ®とは布の名前なのでしょうか?

鳥野見 :

ダイニーマ®は糸状の繊維のことを指します。私たちアビエント社の基本的な事業範囲は、繊維を製造して供給することです。原料となるポリマーから製造して繊維にしたものを、当社の取引先である繊維企業様が織布として加工したり、DCFに関しては自社(旧米国Cubic Tech社)でシート加工を行なうことで、さまざまな質感や機能を持たせたりしています。私たちの主たる業務は繊維製造ではありますが、ダイニーマ®の本領を最大限に発揮するため、他社さまと共同で開発プロジェクトを行うことも多いですね。

髪の毛のように細いダイニーマ®繊維。しなやかでハリがあり、手に持っているという感覚がないくらい非常に軽い。
鉄板やガラスを運ぶ際、指などを怪我しないようにするために着用するダイニーマ®製の耐切創手袋。繊維にはミネラルが練り込まれているのだという。原糸の原料から製造するアビエント社だからこそ、こうした特殊な繊維が実現可能なのだそうだ。

 

なるほど。繊維の名前なんですね。では、そのダイニーマ®繊維について、特徴を教えてください。

 

鳥野見 :

最大の特徴は、なんといっても軽さと強さだと思います。非常に高い強度としなやかさを持つ桁違いの合成繊維を「スーパー繊維」と呼ぶのですが、スーパー繊維の中でもトップクラスの強さを誇ります(質量比)。同じ質量の鉄と比較すると15倍もの引張強度がありますし、同じくらいの太さのロープに仕立てた場合には、8分の1程度の軽さでありながら同程度の強度があるんです。

従来のステンレス製ワイヤーロープ(写真左上)と、超軽量で超低伸縮、超柔軟のダイニーマ製ロープ(写真右下)。手に持ってみると、軽さやしなやかさは歴然。
織布を重ねて作られたダイニーマ製のチェーン。従来の金属チェーンと比較して80パーセントの軽量化を実現。例えば工事現場において作業員の身体的な負担を軽減させ、荷物の破損を防ぎ、作業効率の向上にもつながるのだという。 

こんなに軽いのに鉄のように強いとは驚きです。しなやかな特性を生かしてロープのように編み込んだり束ねたり、織布にして重ねたりできるようですし、いろいろな用途に応用できそうですね。

鳥野見 :

そうですね。大型船の係留ロープ、重量物つり上げスリング、漁網のほか、耐切創手袋や防弾ベストとして使用されることも多いですし、近い将来、日本でも洋上風力発電の係留ロープとして活躍するでしょう。

 

もっとも身近なダイニーマ®製品は、釣り人なら誰もが知っている海釣り用の糸、ダイニーマPEラインでしょうか。従来のナイロンの糸に比べて圧倒的な軽量化を実現したことは、釣り道具の小型化や軽量化に波及しました。女性の釣り人口増加にも大きく貢献したようで嬉しい限りです。

 

また、2021年3月にスエズ運河で発生した日本の船会社が保有する大型コンテナ船の座礁事故は記憶に新しいところですが、救出に使用された大型船舶用のタグロープはダイニーマ®製でした。満潮になったわずかな時間の中での離礁作業は、作業遅れやロープ切れなどの失敗は許されない緊迫した状況でしたが、その実力を遺憾なく発揮しています。

産業材や防弾性能を必要とする用途にまで使用されている、卓越した化学繊維なんですね。後編では、LWP003〜005に使用しているダイニーマの素材「DCF」について詳しく教えてください。

この日鳥野見さんが着用していたのは、ダイニーマ®デニム生地を使用したオーダーメイドのジャケット。ダイニーマ®繊維が25パーセント含まれたイタリア製デニム生地で、しっかりとした重さを感じる見た目とは裏腹にとても軽い。擦れや破れにもめっぽう強いのだとか。 (後編へ)

 

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