軽く薄く強い。特徴的な風合いを持つ先端素材Dyneema(R) Composite Fabric(以下ダイニーマ)を使った2つのコンパクトウォレット。まるでブラックホールのように大容量な「LWP009 Wallet with Dyneema(R)」と、まるで空気のように感じる超軽量な「LWP010 Ultra Light Wallet with Dyneema(R)」。キャラクターの異なるウォレットが生まれた背景や、デザインの裏側のお話をLIFEWORKPRODUCTS (以下LWP)のデザイナーたちに伺いました。前後編でお届けします。
(前編)
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宮沢哲(みやざわ・てつ)
「LIFEWORKPRODUCTS」ディレクター。国内外のインハウスデザイナーを経て、2007年にアンドデザインを設立。2011年よりNTTドコモ プロダクトデザインディレクターを兼務。
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南出圭一(みなみで・けいいち)
「LIFEWORKPRODCTS」デザイナー。国内外のインハウスデザイナーを経て、2016年にアンドデザインに参加。国内外におけるデザイン賞受賞多数。
早速ですが2つのウォレットの企画のきっかけを教えてください。
もともと、軽く薄く強いというダイニーマの生地を活かす商品を考えるなかで、「財布」は取り組んでみたいアイテムの一つでした。
最近はキャッシュレス決済が普及してスマホがメインになり、世の中の財布がコンパクトになっていっています。けれども、自分の生活を振り返ると、小銭などの現金を使うシーンが意外とまだあることや、カードやレシート類などもあまり減っていないとふと思ったのです。そんなところがスタートだった気がします。そこで、まだイメージが固まっていない段階に、頭より手を動かそうということで、試作品をとにかく数多く作って実際に使ってみました。そのなかで自分たちのリアルな生活とフィットしたのが、小銭の取り出しやすさや大量のカード類をざくっと入れられるものでした。そんなラフさがあり、軽さとコンパクトさを両立するような財布というコンセプトが見えてきたという感じです。
LWP009 Walletにつながりますね。
私はロードバイクが趣味なので、乗るときは、アウトドア用の防水性のある財布に入れ替えて持っていきます。ですが、防水性のためか大きくて重いものが多い。探しても自分で使いたいと思うものがない。なので、ロードバイクやトレランの人が使いやすいよう、軽く、必要十分な防水性能を備えていて、さらにはコンパクトで容量がある程度ある財布というイメージがありました。
まさに、LWP010 Ultra Light Walletに通じるコンセプトです。実体験から生まれたのですね。デザインで工夫されたところはどんなところですか?
まず、今回使ったダイニーマは究極に軽くて強靭さがあることが特徴です。けれども、単純に薄さを追求して全部を同じ厚みで作ってしまうと、財布自体のコシがなくなってしまい、とても開閉しづらく、中身を取り出しにくいんです。最初の数々の試作品でぶつかった「壁」でした。
素材の特徴を意識しすぎると、使用感が落ちてしまうということですね。
そこで、厚みが異なるダイニーマの生地を組み合わせることで、軽く薄くても十分なコシをつくることにしました。ほかにも、中身に入れるカード類を構造体にしてしまうというアイデアや、ファスナーを引きやすくする滑らかな傾斜を設けた平行四辺形の形状、そしてファスナーを開けた時に自然と大きく開口するためにファスナーの縫製に工夫を施すなど、一つ一つ課題をクリアしながら作っていきました。
世の中に、ダイニーマを使った財布はありますが、日常で使うには使いづらさや独特のクセなどがある商品が多いと感じていました。なので、素材の特徴を活かしつつ、さらに日常生活でも使いやすいものにしたいという思いがありました。そこが、一番時間がかかったところです。
また、試作を進めるなかで、どうしても日常使いを中心に考えた財布(LWP009)と、アウトドアやスポーツシーンで求める財布(LWP010)が異なるので、当初の予定にはなかった2種類展開になったんです。
LWP010は自分がロードバイクで遠方にいく際に必要な機能はすべて盛り込みました。必要十分な防滴機能、小銭や紙幣などを収納する3つの仕切り、鍵を無くさないストラップなどです。おそらく、世界中で探しても類をみないかなと。大容量でありながらコンパクトで、約8gの軽さの実現は奇跡だと思っています。
まさにどこにもない製品ですね。
もう少し詳しく説明すると、ツーリングやトレランなどで遠方に出かける時に必要なものは実は現金だったりします。それは、コンビニがない人里離れたところを走ることも多く、炎天下で水分補給のために自動販売機に助けられた経験が実際にあったからです。また、意外と思われがちですが、実は家の鍵の収納場所に困ったりするのです。
コンパクトさを実現するためにお札は4つ折りで、小銭も多く入れることができるように。また、コンパクトさを妥協せずサプリやお守りなどを入れられる仕切りを多く設けたのも経験の中から生まれたデザインです。
「自分が使いたいと思うものをつくる」という、LWPの思いを表す製品ともいえますね。後編ではものづくりについてお話を伺わせてください。
(後編へ)