世界最細クラスの糸で作る超軽量生地「KAJIF ULTIMATELIGHT(カジフアルティメットライト)®」を使用して、LWP001のバッグは作られています。この世界最軽量クラスの素材を製造している「カジグループ」にて、バッグ本体の素材提供や全体の縫製をご担当いただきました。
私たち編集部は石川県の工場に赴いて、糸の加工と生地の製造工程を取材。途方もない数のパーツからなる機械の驚異的なスピードとは裏腹に、布が織り上がるまでに要する時間の長さに衝撃を受けました。また、工程の要所では人の目で厳しい検品が行われていて、編集部は現場でただただ感嘆するばかり……。
このインタビューでは、工場見学の直後にカジレーネ 砂山さんにお話をうかがった様子を、前・後編でお送りします。
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砂山徹也(すなやま・てつや)さん
カジレーネ TO&FROブランドマネージャー。アパレルブランド店で販売員として勤めた後、2012年からカジナイロンに入社。開発営業課にて1年間は糸の開発業務に携わる。翌13年から発足した自社ブランド「TO&FRO」でマネージャーに任命され、生地を扱うカジレーネに異動。
先ほど工場で見せていただいたような、ナイロンやポリエステルなどの合成繊維で作られた織物は、日本全国の約9割がこの北陸地方で作られているそうですね。
そうなんです。石川、福井、富山からなる「北陸3県」は元来、絹織物業や繊維業が盛んな土地として知られていました。時代を追うに従って、生産の中心は絹ではなくレーヨン(人絹)に代わり、レーヨンを模したナイロンへと変化したんです。現在、ナイロン生地の出荷量は石川県が全国1位、ポリエステル生地の出荷量は福井県が全国1位で、世界的にも合成繊維の産地として認知されています。
北陸地方は、どういった経緯で繊維産業が盛んになったのでしょうか。
諸説ありますが、北陸の「湿潤気候」がその理由の一つだとされています。糸が擦れるなどして静電気が発生すると織物の製造は困難になりますが、湿気の多いこの辺りではその心配がありません。また、先ほど工場で見ていただいた「ウォータージェット織機」(※1)についても、生産性を飛躍的に向上させた一因に間違いありませんが、これは地下水を含めて水源が豊富な土地だからこそ稼働が可能だったといえると思います。
※1)ウォータージェット織機……横糸を水で包んで飛ばす仕組みを採用した織機のこと。詳しくは、「工場見学(後編)」(<リンクを張る>)をご参照のこと。
気候と水源が重要なポイントだったのですね。では、御社についてもぜひ教えてください。本日は、糸の加工をする「カジナイロン」(工場見学 前編<リンクを張る>)と、糸を織って布にする「カジレーネ」(工場見学 中・後編<それぞれリンクを張る>)の工場見学をさせていただきましたが、どちらも「カジグループ」の会社ですね。
はい。加えて、合成繊維で編み物を作る「カジニット」、繊維機械の設計や製造販売のほか産業用機械の製造や、金属加工を行う「梶製作所」などからカジグループを構成し、一体となって繊維事業に取り組んでいます。
カジグループで製造した布は、どんなブランドで使われていますか。
製造委託としては、アウトドア製品の表地やスポーツブランドのアウター、大手アパレルブランドの機能素材肌着のほか、ハイブランドのファッションウェアなどにご採用いただいています。また、カジグループで製造した生地を使い、自社ブランドとしてトラベルギアブランドの「TO&FRO(トゥーアンドフロー)」、生地ブランド「KAJIF(カジフ)」、メンズアパレルブランド「TIMONE(ティモーネ)」、合繊セットアップブランド「K-3B(ケースリービー)」を展開しています。
大手アパレルなどからの製造委託で作られた服などの場合、購入者が御社の名前を知る機会はまずないと思います。ですが、ファクトリーブランドがあることで、自社の生地の魅力をダイレクトに購入者に伝えることができますね。
その背景には、製造委託の下請けであり続けることへの危機感がありました。北陸地方にある繊維会社の多くは製造委託によって成り立っていますから、海外生産が置き換わりつつある近年は、合成繊維の繊維産地としては下火になっています。弊グループ各社の業務もかつては100パーセント下請けでしたが、私たちにとって初の自社ブランド「TO&FRO」を2014年に立ち上げてからは自社製品を販売するという挑戦をスタートさせました。
糸を加工してから生地にし、服やバッグに仕立てるまでの全工程をグループ内で一気通貫して行なうことができることが、自社ブランドにとっても大きな強みになりますね。
「染め」の工程だけは他社にお願いしているのですが、糸から服になるまでをまかなうことができるこの体制は、日本はもちろんのこと世界でも珍しいことだと思います。加えて、弊社のものづくりのオリジナリティを下支えしているのは、機械を製造できてカスタマイズもできる梶製作所の存在が大きいと考えます。
まさに影の立役者ですね。次に今回のLWP001について、いろいろとうかがっていきたいと思います。