プロダクトデザイナーとのコラボレーションプロダクト、Slate Umbrella Stand。波板スレートを重ねてつくられた傘立てのデザインを手がけた倉本仁さんのスタジオに伺い、LIFEWORKPRODUCTS(以下LWP)デザイナーとともにお話を伺いました。
前編ではデザインのプロセスについて、後半ではデザインへのまなざしやSlate Umbrella Standのデザインについてのお話をおききしたようすをお届けします。(前編)
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倉本仁(くらもと・じん)さん
JIN KURAMOTO STUDIO代表。
1976年生まれ。プロジェクトのコンセプトやストーリーを明快な造形表現で伝えるアプローチで家具、家電製品、アイウェアから自動車まで多彩なジャンルのデザイン開発に携わる。素材や材料を直に触りながら機能や構造の試行錯誤を繰り返す実践的な開発プロセスを重視し、プロトタイピングが行われている自身の”スタジオ”は常にインスピレーションと発見に溢れている。
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宮沢哲(みやざわ・てつ)
LIFEWORKPRODUCTSディレクター。国内外のインハウスデザイナーを経て、2007年にアンドデザインを設立。2011年よりNTTドコモ プロダクトデザインディレクターを兼務。
本日は倉本さんのスタジオにお伺いしていますが、いかにも「ものづくり現場」という雰囲気のある事務所です。いつもどのようにデザインされているのかぜひ教えてください。
スタッフみんなで考えていくというスタイルです。スタッフは全員プロダクトデザイナーでして、自分のほかデザイナー5名とマネジャー1名、そしてインターン2名です。プロジェクトごとに、自分ともう一人でペアを組み、+インターンで進めることが多いですね。若いスタッフが学びながら進められる環境をつくっています。
効率はよくないかもしれないですが、その「効率だけでないこと」を大切にしています。

大変興味深いです。「効率のよくないこと」についてもう少し教えてください。
「じわじわ」と進めていくというような。プロジェクトのはじめは「この筋はないかな」と思っていても、あとでそのよさに気づくこともあるんです。一見無駄に見えるようなプロセスからヒントを見つけて、デザインに落とし込むことが多いですね。過去の成功体験だけでは、それ以上のものはつくれない。なので、新しいものをつくるときはひたすら試行錯誤します。
若いスタッフがいることで、新鮮な視点や流動性が生まれますよね。今回あらためてプロジェクトをご一緒することで、そんなスタジオの運営についても学ばせてもらいました。普段クライアントとはどんなふうに向き合っていますか。
クライアントのみなさんとは十分に会話をして、思っていることを引き出し、それをまとめていく感じですね。ぼそっと言ったことや自然と出てきた言葉を丁寧に拾ってかたちにしていくような。こちらからの一方的なアイデア出しはせずにお互いに「半分半分」で進めていくことが多いです。
ほかのプロダクトデザイン事務所とのちがいを1つあげるとしたら、どんなところでしょうか。
圧倒的に手描きスケッチが少ないところです。というかほぼ描かない。替わりに「手描き模型」というような感じで、スケッチの替わりにラフ模型をたくさんつくっていきます。ダンボールだったり、杉の枝で作ったり。そんなラフ模型をつくるときに使う素材も大切にしています。
頭で描くスケッチは、どうしても記憶の編集になってしまうんですよね。この素材はこんなふうに曲がるなとか、こんな風合いだったなとか。けれども、実際には記憶とは異なる素材の特徴があったりする。そういう感覚を大切にしています。

スケッチは記憶の編集、なるほど、たしかにそうですね。大学で教えているときも、絵を描くことと形をつくることはまったく異なることを体験させます。絵がうまくても、ものがよくないなんて、プロでもざらにある。
もしかしたら、自分のデザインを、素材に押し付けてしまっているのかもしれないですよね。そうならないよう、素材と向き合ってラフ模型をつくるプロセスを大切にしています。
“素材”を感じるスタジオなのは、そんなプロセスがあるからなのですね。
そうですね。事務所にはいろんな素材があふれていますよね(笑)素材を散らかしながらといいますか、素材の手触り感を感じながら進めていくことが多いです。
脳科学者の方から、脳は自分が体験したことの編集しかできない、創造ができない、という話をおききしました。なので、さまざまな体験ができるように、いろいろ散らかして「ポジティブアクシデント」をつくる事務所にしたいと思っています。アイザック・ニュートンが万有引力をひらめいたのも、りんごが落ちる偶然があったからだと思うので。
だんだんと素材が増えて手狭になっていくので、もう少し広いところがあるといいんですけれど(笑)


ものだけでなく、スワッグなどの自然物も多い
では、LWPとのコラボレーションに参加された経緯を教えてください。
こちらは私からご説明します。同じプロダクトデザイナーとして、これから先も一緒にものづくりを続けていきたいと思える方に商品開発をお願いしたいと思っていました。倉本さんは「自分が本当に使いたい」と思うものを飾らずに素直につくってくださる方です。そんな思いから、今回は倉本さんにお声がけさせていただきました。
もともとLWPのことは知っていました。「デザイナー自身でものをつくる」ということをプロダクトデザイナーなら一度は考えるとは思うんです。それをLWPは本当に実現しているんですよね。メーカーになる楽しさを知っているといいますか、ほかのデザイン事務所とは異なる視点を持っていると思っていました。
LIFEWORKPRODUCTSという名前の通り、プロダクトデザイナーにとっての集大成のようなプロジェクトだとも思いましたし、「本当に自分が使いたいもの」をつくりたいとも思いました。デザインへの問いかけを促すようなものをつくる取り組みに共感したんです。
LWPは「プロダクトを使い尽くすこと」がコンセプトです。暮らしのなかで、「道具」として長い間使われ続けるようなプロダクトを送り出したいと思っています。特に、今回は倉本さんが得意とする「手の痕跡」が残ったようなプロダクトをつくりたいと思っていました。そして、Slate Umbrella Standのデザイン模型を見たときに、新品の時よりも、長く使われて苔などが生えたらもっといいなと思ってしまいました。まさにLWPらしい製品だなと思ったのです。

ありがとうございます。後編では、デザインへのまなざしやSlate Umbrella Standのデザインについてのお話をきかせてください。
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